まだ「企業ポータル」から始めますか?

こんにちは。中村です。

Microsoft の「Office 365」は、ビジネスアプリケーションをまとめた統合クラウドサービスです。私はコンサルタントとして、その導入計画や社内展開をお手伝いする機会が多いのですが、「どのサービス(アプリケーション)から活用するか?」は常に悩ましいところです。

なにしろ、メールからタスク管理、プロジェクト管理、グループウェア、BI、動画配信まで、契約ひとつで多様なサービスが即、提供されます。ある程度の規模がある組織であれば、従業員の混乱を避けるためにも「まずメールと企業ポータルから」という 段階的な展開が一般的です。

ただ、実は、私自身はこの「メール+企業ポーアル」組み合わせについて、少々懐疑的です。今やビジネス基盤として不可欠な「メール」は良いとして、「企業ポータル」はどうでしょうか?本当に(何かと不足しがちな)初期リソースを投下するだけの価値はあるでしょうか?

その企業ポータル、最初から必要ですか?

いわゆる企業ポータルというもの

企業ポータル、エンタープライズポータル、全社サイト、呼称はいろいろですが、つまるところ「従業員に向けたインターナルな Web サイト」です。コンテンツとしては、掲示板やニュース、規定などのストック情報、社内システムへのリンク集、それに IR や経営者ブログ、などが一般的です。。

企業ポータルの構築は往々にして一大プロジェクトになります。内向きのコンテンツとはいえ、企業の「顔」ですから、呼称からコンテンツ、その配置、コピー、外観(デザイン)にいたるまで慎重に検討されます。トップページに何を配置すべきか?レイアウト?誰が決定するのか?更新は?管理責任者は?

喧々諤々の議論(時には政治的な諍い)となることも珍しくはなく、大組織であれば要件定義だけで数ヵ月~半年かかることもあります。

企業ポータルの寂しい現実

このように満を持してリリースされる「企業ポータル」ですが、それに見合う成果があるか?と言われると、中々に厳しいのが実情です。大半の企業ポータルは、リリース後ほどなく、このような課題に直面することになります。

「社員のアクセス頻度が低い」「社員がコンテンツを読んでくれない」

こうした課題に対して、ポータルのコンテンツを更に充実させたり(正攻法)、ブラウザの初期ページをポータルに設定したり(荒業/嫌われます)、いろいろと対策はあるのですが、より本質的な問題は「多くの従業員にとってポータルは重要ではないし、実際のところあまり役立たない」と言う点でしょう。

なんとも寂しい話ですが、従業員にしてみれば当然です。日々、忙しく働くなかで、ポータルにあるような業務から「遠い(短期的な不可欠度が低い)」情報に積極的にアクセスする理由はありません。広報担当が渾身で発信するニュースも、従業員にしてみれば、まあ「時間があれば読もう」程度です。この発信側と受信側の非対称に、企業ポータルの構築と運営の難しさがあります。

それでもデラックスな企業ポータルが好まれるわけ

おそらく発信(構築)側も、このような問題には気が付いているのです。しかし、それでも重厚長大な企業ポータルが主流であり続ける理由は、その「分かりやすさ」が大きな要因です。

情報基盤の刷新はビジネス的にも一大イベントで、経営としても大きな挑戦的投資ですが、従業員に歓迎されることはまずありません。現場は既存システムに慣れていますし、業務遂行に責任を負う立場では、どうしても懐疑的なスタンスになります。

そんな中でリリースされる企業ポータルは、大袈裟に言えば、経営レベルの意思決定を象徴するシンボルです。当然、コンテンツの内容や機能、外観まで、「手を抜いた」印象を与えるようなこと極力、避けなければなりません。

本来、企業ポータルが「シンボル」である必要はないのです。むしろ新たに実現される基幹業務システム(たとえば物流系、人事系、あるいは CRM、顧客データベース など)の方がその役割に相応しいでしょう。

しかし、こうしたシステムはリリースまでに年単位の時間を要し、さらに実際に業務で利用するまでは新旧の差がわかりにくい、という問題があります。そこで、比較的早くリリースでき、違いがわかりやすい「企業ポータル」が注目され、結果として 変革の象徴として、 デラックス化に拍車がかかるのが実情ではないでしょうか。

企業ポータルが生まれた経緯

「企業ポータル」が盛んに喧伝されるようになったのは、2000 年台の Lotus Notes や Microsoft Exchange に代表される「グループウェア」の普及、そして「ペーパーレス」ブームがひと段落した 2010 年前後でした。

グループウェアは、旧来のメール/ファイルサーバーの不足を補うことで、爆発的に情報共有とコミュニケーションを加速させました。しかし、良いことばかりではありません。グループウェアの普及とともに情報のサイロ化が進み、気が付けばどの企業でも「どこに情報があるのか分からない!」が共通の悩みとしてクローズアップされるようになりました。

そして、こうした背景から生まれたのが企業ポータルです。情報リソースを適切に整理整頓し 1) 従業員を適切にナビゲートする、2) 複数の重要コンテンツを一画面に集約する、という二つの機能が重視されました。

ネットワークやPCとブラウザの処理能力などの限界もあり、初期の企業ポータルはその多くがリンク集と掲示板程度でしたが、次第に統合検索、インタラクティブなニュース配信、動画、リアルタイムのダッシュボード(BI)、などが加わり、今ではひとつのビジネスインフラとして完成を見た、といえるでしょう。

いま必要な企業ポータルとは

しかし、時代は移り変わります。現代(2019年)においては、 Slacks や Teams に代表される、よりフロー性が高く小規模で即応的なコミュニケーションスタイル(SNS型)が注目を集めています。

その背景には、グローバル化や人材の流動化など、 ビジネス環境の急激な変遷があり、またシステム面では、大容量の高速ネットワークやモバイル機器の普及(スマートフォン/タブレット)、AI や IoT のような新技術も見逃せません。

このようなその時勢において、従来型「フルスペックな企業ポータル」を用意し、従業員に積極的なアクセスを求めることに、どれだけの意義があるでしょうか?はたして費用対効果は見合うでしょうか?あらためて再考する必要があります。

もちろん、これは企業ポータルが不要という話ではありません。企業ポータルが担う総合的情報ナビゲーション、あるいは社内メディアとしての役割はビジネスに不可欠であり、SNS 型情報基盤がフロー/小規模に特化していることを鑑みれば、ストック/マスに優位な企業ポータルは、むしろ相互補完的な関係にあります。

しかし、相互補完的であるからこそ、企業ポータルはもはやビジネスにおける情報インフラの中枢ではありません。それ見合う「ミニマムなポータル」を設計することが重要なのです。

ミニマムな企業ポータル

前述のとおり、企業ポータルの担う役割は、大きく三種類に分けることができます。

a) 業務システムへのナビゲーション
b) 全従業員向けの情報整理
c) 社内メディアとしての発信

a) ナビゲーション はいわるゆリンク集です。経理や営業などの業務システムや、各種申請窓口への導線となります。

b) 情報整理 は例えば人事規定や業務ルール、契約書式など、従業員が必要とする情報を整理して提供する機能。各種ダッシュボードも含まれます。

c) 社内メディア は社長はブログ、ニュース、IRなど、主に経営サイドから従業員に向けた発信です。

SNS 型情報基盤との相互補完を前提としたとき、ここから最優先されるべき、業務上の必須度が高く SNS 型が不得意な a) ナビゲーションです。次いで b) 情報整理、最後に c) 社内メディア でしょう。ミニマムな企業ポータルは、先ずナビゲーションに注力し、その上で段階的に他のコンテンツを進化させてゆくのが、着実なプランと言えます。

インターネットにおいて最も有名なポータルと言えば Yahoo ですが、その最初期はごくシンプルなディレクトリでした。その後、徐々にコンテンツが拡充され、現在に至ります。もちろん、そのまま企業ポータルに当てはまる訳ではないとしても、ひとつの参考にはなるでしょう。

新しい情報基盤(例えば Office 365!)を導入するにあたり、「企業ポータル」のシンボル性に心惹かれるかもしれません。しかし、そこはグッとこらえ、まずナビゲーションを中心とした必要最小限でリリースしましょう。その後、ビジネスニーズと優先度を整理しながら、自社に最適なポータルとして育ててゆく。このアプローチを、私は強くお勧めしたいと思います。


[この投稿は投稿者のブログ Be_Better から転載しています]

投稿者プロフィール

中村 和彦
中村 和彦
P&A Works Company 株式会社 代表取締役/CEO
サッポロビール社において情報システム部門、経営戦略部に所属。
退職後、シンプレッソ・コンサルティング社を設立し、コンサルタントとして大手企業を中心に、全社規模の情報基盤導入や刷新プロジェクトを支援するかたわら、書籍執筆や講演活動、ブログを通じた情報発信、
日本初となる SharePoint ユーザ会設立など広範な活動を行い、Microsoft 社より Microsoft MVP を受賞。
2015年にシンプレッソ社を中堅 SIer であるテンダ社に売却。
2016年に退職後、一年の準備期間を経て、P&A Works Company 社を設立。